平壌<病室政権>
政治空白の異常事態を支える張成澤の危うい命運
2008年12月23日
1."病室政権"を掌握する男
その後の"平壌情報"には見るべきものがないが、そんな中で注目されたのは2月12日号の『週刊現代』の「金正日を激怒させた"女帝"と"隠し子擁立計画"」の記事だ。それは金正日の側近の1人が語ったという次のような内容である。(1)義弟の張成澤と共に"病室政権"を取り仕切っているものとみられている"第4夫人"の金玉夫人は、将軍様との間に子どもをもうけている。この息子を後継者として擁立する勢力が結成され、それを知った将軍様は怒り狂った。この激昂が倒れる原因の1つにもなった。(2)容態は奇跡的回復をみせており、左手に麻痺が残っており言葉も不自由ではあるが執務室での政務をとっている。歩行はヨチヨチ歩きだが全権力を一手に掌握している。だから"権力闘争"などはあり得ない。(3)オバマ米大統領とは朝米首脳会談を開くことになろう----などが主な要点である。
また12月12日には「北朝鮮の現状と拉致被害者の救出」(家族会・救う会・拉致議連主催)のシンポジウムに出席した脱北者で北朝鮮・朝鮮労働党の対南工作機関である統一戦部出身の張哲賢が次のような内容を述べたのが注目された。
(1)平壌政権内部では、穏健派と強硬派とが対立し、権力闘争をしているとの説があるが、それは事実ではない。徹底した個人独裁の下での権力闘争はあり得ない。(2)組織指導部、宣伝扇動部、統一戦線部、党軍事部、国家保衛部など主要署の実権は全て将軍様が兼務して掌握している。(3)後継体制は出来ていない。将軍様万一の時はそのために権力の空白が生ずるだろう。
しかし、この見方はあまり内部にいたために政権を外部から分析する客観性に欠けているために見誤っているところがある。"権力闘争"はあり得ないとしているが、現実に金正男をめぐって腹違いの兄弟が多いために骨肉の争いが過去に生じている。先年オーストリアで金正哲支持勢力による正男暗殺計画が発覚している。また将軍様の義弟で事実上の実力者No.2と言われる張成澤は過去、平壌市内をベンツで走行中、軍用トラックにぶつけられ重傷を負った事故もある。これなども交通量の少ない平壌市内での交通事故などは考えられず、明らかに張成澤の親北京・改革開放路線に対して反発する軍部による暗殺未遂事件だったといわれている。
将軍様に一点集中した個人独裁下にあってもこれほどの暗闘が発生するのであるから、ここで権限を部署ごとに割譲した場合、権力闘争は公然と表面化して激しいものとなろう。だから将軍様の独裁は終身制ならざるを得ず死亡直前まで自ら後継者を指名することはないだろう。金正男が北京で中国外交部の幹部たちに「後継者はいない」と言っているのもそのためだ。
後継者を指名するためにはまずその前提条件となる環境が整備されなくてはならない。それには以下の条件がクリアされねばならない。
(1)米朝交渉の進展と解決 (2)日朝国交の進展 (3)国内情勢で整備→経済再建と世代交代の進行"海亀派"(海外留学組、開明勢力の浮上)など高級テクノクラスの進出----
将軍様のどうにか息のあるうちにこれらの進展と同時に容態によってはたとえ将軍様の後継者指名を待たずとも後継者を擁立させて政治的空白ができないようにする。----将軍様の〈Xデー〉に備えた非常事態対策は深く静かに潜航中なのである。もちろんこの非常事態の対策を直接担当しているのは党行政部長の張成澤その人にほかならない。
2.キッシンジャー"電撃訪朝"の実現
アメリカのオバマ新大統領の登場をにらんでの米朝交渉も静かに進んでおり、'09年早々にはあのキッシンジャーによる"電撃訪朝"が実現し米朝国交交渉は具体的に進展するという説もにわかに実現性を帯びてきた。かつてのニクソン訪中に先立ってのキッシンジャー特使が背後の数百社にのぼるユダヤ企業の要請を背に鎖国状態の北朝鮮への投資戦略を展開するためもあって、華々しくオバマ外交の一翼を担うというものだ。
将軍様の当面の課題は、米朝交渉の展開で六カ国協議のテーブルを単独で飛び越えて米国一国とのみ交渉するというものだ。将軍様が最後の気力、体力を振り絞っての最大テーマであるという。
そして次の国をあげてのテーマは'12年に迎える〈金日成生誕100周年〉である。これは国の威信を懸けての一大イベントとするために海外からの経済支援や投資を受け入れるための準備が進められている。目下、病の克服の最中にある将軍様にとって〈最後の夢〉が叶えられるかどうか、その答えはこの新年に出るはずである。
3.平壌政権"危機管理"の中心核、張成澤の〈人物解剖〉
'04年に刊行された『金正日破滅の日』の中で〈ポスト金正日のキーパーソン〉として次のように記述している(同書116頁〜128頁)
張成沢は大学を卒業した後、平壌市党組織指導部指導員として活躍を始め、金父子からも認められ、ついに妹の金敬姫と結婚することになった。この結婚以来、金ロイヤル・ファミリーの一員となった張成澤は金正日の側近No.1として辣腕を振ってきた。
'70年代の半ばには、各国の北朝鮮大使館を統括する海外大使館指導課長として麻薬、酒の密輸など非合法をも含めた外貨稼ぎの戦略を指揮していた。だから金正日の信頼は絶大なものがあり、張の実兄・張成萬は人民軍第3軍団長、平壌防衛という重要ポストに据えるなど一族は各々に重要な地位に就いている。
大方のみるところでは彼は実務のこなせる有能な人材であり、しかも人望がある、という。また金正日がおよそ行きたがらない地方にもよく足をのばし、人民末端の実情にも通じているだけではなく、金王朝のファミリーメンバーであるから高級官僚の組織機構にも太いパイプを持っており官僚たちを動かすチャンネルにも精通しているというから単なるポストに就いているというだけではない"実力派"なのだ。
これも金正日のおかげと自覚する張成澤はそれこそ忠実に将軍様、義兄のために手足となって活躍している。
金正日の歓心を得るためにある時、張成澤は海外大使館を舞台に非合法的外貨稼ぎで得た資金で、平壌市内の普通江区域に金正日専用の休憩所を建設した。これで金正日の覚えをさらによくしようとの魂胆であるのは見え見えであったが張成澤はこの工事に精魂をかたむけた。しかも工事期間もスピードアップさせる突貫工事であった。
ところが竣工テープのカットをするという日の未明に建設工事の建物内部から火の手があがってしまったのだ。
無理な突貫工事のために疲れ切って寝ていた労働者たちの百人以上が焼死してしまうという大事故となってしまった。
こんな工事にも懲りずに張成澤は金正日を喜ばせたいがために平壌市内に金正日の豪華別荘を建設しようとの計画続行をたてていた。ところがそれを知った金日成は怒り、そのために新設計画は挫折してしまった。
だが金正日の血縁側近のNo.1として張成澤の権勢は日の出の勢いであった。もともとが遊びの方も好きであった張成澤は芸術団の美女集団を総上げして側近たちを集めて深夜までパーティーを開き深酒をするようになった。
こうなると女房の金敬姫は面白いはずはない。金敬姫は「遊びまくる夫は革命精神が希薄になってきている。再教育が必要だ」と金正日に申し入れたという気丈な妻だ。
金正日は生母を同じくする金敬姫のことは深い肉親愛を注いでおり母親の愛情に縁が薄いことをかわいそうに思っていたので金敬姫の幸せのためには何でもする、との姿勢を張成澤に示していた。有能なやり手として評価し、大切な妹をあげたにもかかわらず張成澤はその負託に応えず、けしからん奴だ、となり金日成、金正日、金敬姫の合意によって張成澤は降仙製鋼所の労働者として'78〜'80年代の初めまで「革命化教育」(強制労働による思想改造、洗脳教育)を受ける破目になってしまった。
つまり張成澤はこれまで権力中枢部に身を置いたVIPであったのに溶鉱炉の一介の肉体労働者として強制労働に従事させられたのだった。張成澤はロイヤル・ファミリーの一員となったがために、極楽から地獄までのキツーイ焼きを入れられたのであった。
その後、許されて平壌に呼び戻され「党・青年及び三大革命小組」指導部長に任命されやっとカムバックへの道が拓けた。
実務家としては有能
'88年のソウルオリンピックに対抗して北朝鮮は「世界青年学生祝典」を開催したが、この準備作業の中で平壌市内の建設事業を張成澤は担当している。この時、張成澤は全国から人材や資材を集め、さすがに実務家としての本領を発揮し計画どおりに工事を成功させ、この功労によって「努力英雄」の称号を受け、最高人民会議代議員、党中央委員会候補委員、にものぼりつめている。だが平壌で開かれたこの一大イベントには40億ドルもの莫大な経費を要し、このために'90年代以降の北朝鮮食糧危機の一因にもなったというのだから一般人民を泣かせる独裁政権の見栄っ張りも罪深いものだ。
これほどまでに金ロイヤルファミリーの重鎮の一人となった張成澤であるが最近の情報によれば妻の金敬姫が俳優の男性と浮気を重ねて張成沢はそれを悩んで占い師に相談したというから頭のあがらないエライ女房を持った夫の苦悩を味わっているようだ。
'04年4月19日における金正日の"電撃訪中"の直前に一部の韓国マスコミは「失脚したか張成澤」の情報を流していたのが注目される。
張は労働党組織指導部の金正日に次ぐNo.2の第一副部長であったが張はそのポストを解任されたというのだ。同指導部といえば労働党の中であり最高権力機関の一つである。またある情報によれば、訪中の直前に張は改革開放路線に反発する金正日と対立してしまい金正日は「こんなにオマエが無能な奴とは思わなかった」と怒鳴られたあげく第一副部長のポストを解任されてしまったというのだ。
金総書記に継ぐ事実上のNo.2とされていた張成澤はいつも金正日の側近として地方視察に随行していたのに'03年の夏頃からその姿がみかけられなくなったのだという。
確かに'04年4月、金正日の極秘訪中の際にも随行員たちの中に張成澤はいなかった。
最近の韓国情報によれば、職権の乱用などの容疑で、党から徹底した調査を受け自宅に身柄を軟禁された状態にあるといわれる。
また一方、偶像崇拝が進む高英姫夫人の息子である二男、金正哲、三男、正雲が近い将来の後継者として浮上しているが2人ともまだ若くそこまで金王朝体制で持つかわかったものではない。
王朝内部の権力闘争は激化する傾向にある最中の高夫人の死は金正日に手痛い打撃を与えたのは確かで、こうした内憂に加えて、外患は諸外国による核廃棄への圧力と金王朝の体制保証の駆け引き、後継者問題に悩む金正日にとって中国訪問から帰国途中の謎の列車事故は単なる事故ではなく"暗殺未遂"事件だったのではないか、との疑惑も消えてはいない。
さて、こんな金ロイヤルファミリーNo.2の張成澤の命運をみていこう。
張 成沢 1946年2月6日生まれ(9紫火星年、5黄土星月)離宮傾斜
丙 戌(辛丁戌) 正 官 比 肩 冠 帯
庚 寅(戌丙甲) 劫 財 印 綬 胎
辛 亥(戊甲壬) 印 綬 正 財 沐 浴
偏 官
空亡 寅卯 順8カ月
51才〜61才 丙申 正官 帝旺 '04 59歳 甲申 正財 帝旺
61才〜71才 丁酉 偏官 建禄 '05 60歳 乙酉 偏財 建禄
71才〜81才 戊戌 印綬 冠帯 '06 61歳 丙戌 正官 冠帯
'07 62歳 丁亥 偏官 沐浴
'08 63歳 戊子 印綬 長生
'09 64歳 己丑 偏印 絶
●性格
楽天的で世話好き、義理人情にも厚い。剛情で負けず嫌い、器用で口八丁手八丁、言いたいことは誰にも遠慮しないでズケズケ言う。自尊心は強く人の言うことに耳を貸さない。
名誉欲は異常なほど強い、生まれつき政治には関心が深く行政管理能力があり組織運営が巧みである。
人間的にも沈着であり態度も謙虚、責任感が強く、信用を重んじ几帳面で言行一致の人物。名誉を重んじ面子をとても大切にする。
辛いことに遭っても決して弱音を吐かないだけの根性の持主。
理想や大義名分を目標にその実現のために努力していくタイプ。また特徴としては大勢の人たちから尊敬されたり頼りにされたりする星を持つ。上下の人望を得ることができるのが人生における強運の要因となる。
●金正日との相性
金総書記とは、互いに親しみ共に栄えるという絶妙の組み合わせの人間関係にある。
互いに必要な存在であり、コンビを組むことによって相乗効果をあげることができる。
だがマズイ一面もある。それは両者が対立し争うような局面に至った時に互いの相性が裏目に働いて摩擦のエネルギーは倍加されて互いのエネルギーを消耗し合う。
両者の星を比較すると'08年以降は張成澤の方が個人的命運は強いものがあり、将来、場面によっては金正日よりも上位に立つこともあり得る。
"ポスト金正日"に台頭する男 ・今後の運命的傾向

'02年、'03年は凶運期がめぐっていた。特に昨年は「総書記の随行員から姿が消えた」といわれているが〈他者との対立によって損害を蒙る、変動年〉の気運にあるだけにその身に何らかのマイナス現象が働いたものと予測される。とりわけ官途にある者は何らかの"挫折"に遭う年である。そしてその原因は前年の'02年に発生したはずだ。
また張成澤にとっての"運命の年"になるのは'06年であり、この年は〈自分が今までして来たことの集大成ともいうべき結果が現れることになる〉のだ。
この'06年という年は金正日にとって重大な年となり、さらに北朝鮮の国運からみてもこれまでにない"大変動"を伴う年となることからみて注目すべき年になるはずだ。
張成澤の個人的命運としては'00年〜'05年までは後半生における最大の危険期となり、その凶作用の影響は'06年〜'11年頃まで続いていくことになるが命運自体はきわめて強運であり、ポスト金正日の注目のキーパーソンとなってくるにちがいない人物であり、またそれだけの運気を所有している。
韓国に亡命した黄長燁は「金正日体制が崩壊すれば、次の指導者は金正男や金正哲ではなく張成澤が有力だ」と指摘し、張の長兄が首都防衛を務める第三軍団長、次兄も軍団長級であるから軍部への影響力も無視できないものがある。
また張成澤が現在の強権を振えるのも後ろ盾となっているのは、総書記の金正日以下の9人の書記の中の1人、金中麟が控えているからだ。この人物も既に83歳、もしこの人に何かあると成澤の足元は極めて不安定なものになるという説もある。
ともあれ'09年から張成澤はNo.2としての存在感はもっと大きなものになるが、それは個人の命運にとっては吉になるか、凶になるか、近未来の北朝鮮を占う要件の1つになり得るが次号でそれを解明しよう。
